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『蜜蜂と遠雷』恩田陸/ピアノコンクールと音楽に満ちているこの世界

*ひだまりさん日記* ~晴れ 時々 読書とパン~

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『蜜蜂と遠雷』恩田陸/ピアノコンクールと音楽に満ちているこの世界 

恩田陸さん
『蜜蜂と遠雷』

私はまだ、音楽の神様に
愛されているだろうか?





あらすじ&感想


私はまだ、音楽の神様に愛されているだろうか?ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。著者渾身、文句なしの最高傑作!
―「BOOK」データベースより―


これはすごい!!
「著者渾身、文句なしの最高傑作!」と言うのがわかる気がします。
面白いという言葉では足りないくらい面白かったです。
舞台を描いた恩田さんの『チョコレートコスモス』のピアノ版と言ったところ。
『チョコレートコスモス』好きな方は、絶対 好きだと思います。

ピアノコンクールが舞台のお話ですが、それぞれの才能や音楽にかける思いが描かれていて、胸が熱くなりました。
彼らがピアノのプロなら、恩田さんは文章のプロ。
音を文章で描くのはそうとう難しいのではと思いますが、恩田さんの文章は素晴らしいです。


恩田陸さん
『蜜蜂と遠雷』のレビュー


それぞれの「音」


本書を読んで1番に感じたのが、読者を引き込む文章力の凄さです。
やはり恩田さんはプロだと再認識しました。
読み始めから引き込まれる。

ピアノが関係した本で私がこれまで読んだものは、宮下さんの『羊と鋼の森』、中山さんの『さよならドビュッシー』です。
2冊とも、それぞれの作家さんの持ち味がでていて楽しく読めました。
そして今回、恩田さんの『蜜蜂と遠雷』を読んだわけですが、ド肝を抜かれました。

・・・こんな音の表現もあるんだ。
恩田さんならではの「音」。
それは、例えばこんな表現です。


突然、ふうっと気温が下がった。それまで客席を照らし出していた茜色の光は消え、肌寒いフランスへと運ばれたのである。空は俄に暗くなり、湿った風が吹き始めたと思ったら、ポツポツと雨が降り始めた。(中略) 子供たちは雨を避けて走り出す。犬も一緒だ。ああ、雨が降っている。



コンクールで風間塵が奏でた、ドビュッシー「版画」、三曲目の「雨の庭」の表現です。
恩田さんが描く音から情景が伝わってきますね。
私もそこでみんなと演奏を聞いているかのような、本の登場人物と「音」を共有しているかのような気持ちになります。
それがとても心地良いんです。
思わずドビュッシーの「版画」を聞いてみたくなってしまいました。





クラシックはあまり知らなくて・・・。
この物語にはたくさんの曲と、たくさんのイメージが描かれています。
私ももっと詳しかったら、より楽しめたのかもしれません。
そう思うと、少し残念な気持ちになりました。
一気読みしちゃったけど、本に出てくる曲を聞きながら読んでも良かったかな。


芳ヶ江国際ピアノコンクール


舞台は、芳ヶ江国際ピアノコンクールです。
エントリーから始まり、第一次予選、第二次予選、第三次予選と続き、本選へ・・・。
果たして優勝を手にするのは誰か?


今回も個性的な登場人物たちでした。

今は亡きユウジ・フォン・ホフマンを師としていた風間塵
小さな頃から天才少女とされてきたが、母の死をきっかけにして舞台から姿を消した栄伝亜夜
何をやっても様になるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール
働きながら必死に練習をこなす高島明石


私のお気に入りは、亜夜です。
母が亡くなり、ピアノの舞台から姿を消した天才少女。
様々な想いが描かれていて泣きそうになってしまいます。
彼女の演奏は1番最後。
他の3人と出会い、彼らのピアノを聞くことで成長していく姿が眩しかったです。

エントリーから本選まで、彼らの演奏を次々と読んでいくわけですが、全く飽きず一体感が味わえるのはこの本がいかに素晴らしいことか!・・・と思います。
亜夜にとって、いや、読者を含めたみんなにとってのキーマンは、風間塵という少年です。


彼は「ギフト」か「災厄」か


今は亡きホフマンに師事していたジン少年。
偉大な音楽家だったホフマンの遺書にはこんな文章がありました。


皆さんに、カザマ・ジンをお贈りする。(中略) 彼を『体験』すればお分かりになるだろうが、彼は決して甘い恩寵などではない。彼は劇薬なのだ。



彼は劇薬。
彼の演奏を体験すれば、それは自ずと分かる。
「ギフト」にもなり得るし「災厄」にもなり得る少年です。
・・・どういうことか、気になりますよね?
それは実際に読んで「体験」してみて下さい(*^^*)


本書を読んで、興味深い表現だなと思ったところがあります。
少年のピアノの演奏を聴いて、「恐怖」や「ゾッと」などの言葉が頻繁に出てくるんです。
美しいピアノ演奏のはずなのに、この表現は面白い。
得体の知れないものを目の前にした時のような気持ち。
この表現だけでも、少年はある種の才能がある天才なんだなと分かります。
思わず私も背筋を伸ばしてしまいました。





「春と修羅」のカデンツァ


第二次予選の「春と修羅」のカデンツァの部分が、個人的にはとても楽しめました。
カデンツァとは・・・自由に即興演奏できる部分のことで、4人それぞれの「春と修羅」が楽しめるんです。

最年長の明石は、あの言葉をメロディにのせます。


あめゆじゅとちてけんじゃ。
あめゆじゅとちてけんじゃ。

賢治は波打ち際を歩き続ける。トシの声など聞こえないかのように、俯いて、黙々と暗い浜辺を歩き続ける。



聞いてみたくなります。
明石の「春と修羅」。
・・・他の3人の「春と修羅」も、それぞれの個性が出ていて面白かったです。


タイトルに込められた想い


先ほど、本書のキーマンは風間塵だと書きましたが、『蜜蜂と遠雷』というタイトルはそのまま彼を表しています。
養蜂家の父を持ち、観客からは蜜蜂王子と言われているジン少年。
第三次予選の直前に遠雷を聞き、天国にいるホフマンに語りかけるように弾くピアノは凄かった。
そして亜夜にも音で語りかける。
亜夜にとって、彼は紛れもない「ギフト」となり得ます。

『蜜蜂と遠雷』というタイトル。
本書を読みながら、そこにはもう一つの意味があると思いました。
一つはジン少年ですが、もう一つは「音楽に満たされた世界」。
最初の方にこんな文章があります。


明るい野山を群れ飛ぶ無数の蜜蜂は、世界を祝福する音符であると。そして、世界とは、いつもなんという至上の音楽に満たされていたことだろう



蜜蜂が音符になるとは、面白い表現です。
でもわかる気がする。
遠雷のように、世界はあらゆる音楽で満たされています。


ああ、本当に、この世界は音楽に満ちている。ドアの開閉音、ホールの窓を叩く風、人々の足音、会話。言葉のひとつひとつが感情という曲想と共に発せられ、この世を満たす。



この文章が好きです。
ひとつひとつの音が全て音楽。
そう思うと、なんだか全ての音が愛おしくなってきます。

雨や風の音、
誰かが歩く音、
汽車の音、
ご飯の炊ける音・・・。

世界に音が満ちているから、安心して生活していける。
もしも、それが消えてしまったら・・・と思うとゾッとしました。


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ピアノ, コンクール, 音楽, 恩田陸, ,

2 Comments

かの  

読み終わってあらためて、
レビューを読みに来ました。

すごいですねぇ。こんなに語れるの。
私は方針状態で 笑

本当にいい本でしたね!

2016/11/05 (Sat) 16:45 | EDIT | REPLY |   

ひだまりさん。  

かのさんへ。

ありがとうございます(*^^*)
本当にいい本でしたね!
恩田さんの文章は素晴らしいです。
読みながら聴いている心地になって、凄いなぁと思いました。

かのさんのノートを拝見して、読み終わったときの感動がよみがえってきました!
ドキドキした気持ちと清々しさと・・・。
2度も味わえたのはラッキーでした(*^^)
私も恩田さんに拍手を送りたいです。

2016/11/05 (Sat) 17:16 | EDIT | REPLY |   

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