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『虐殺器官』伊藤 計劃(けいかく)/虐殺の文法がもたらす平和と憎しみの世界

*ひだまりさん日記* ~晴れ 時々 読書とパン~

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 『虐殺器官』伊藤 計劃(けいかく)/虐殺の文法がもたらす平和と憎しみの世界

伊藤 計劃さん
『虐殺器官』

地獄は頭のなかにある。
だから逃れられないものだ






あらすじ&感想


9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。
―「BOOK」データベースより―


伊藤 計劃さんの本は初めてです。
『虐殺器官』、なんて凄まじいタイトル・・・。
正直、初めは手に取るのをためらいました。
でも読み終わった今は、この人の本、他にも読んでみたいと思ってしまうほど。

面白いんですよね。
・・・というか、すごい。
多少のグロさはあるものの、引き込まれてしまいました。
伊藤さんが描く近未来の世界観、暗殺を任務とする主人公の心理や、それを淡々と描いている背景。
そして謎の人物ジョン・ポール。

なぜ虐殺はおきてしまうのか?
そこには、どんな心理があるのかと興味深く読みました。
決して明るい話ではないんです。
「虐殺」なんて想像するだけでも敬遠するようなお話なのに、読むのを止められない。

この本の作者、伊藤 計劃さんは、34歳の若さで亡くなっているんですよね。
『虐殺器官』はデビュー作のようです。
デビュー作にしてこの出来。
すごい。


未熟な主人公


本作の主人公、シェパード・クラヴィス大尉は、大人なのにどこか未熟さを感じる人でした。
暗殺を任務とする職種について、母の死を引きずったまま生きています。


ぼくの母親を殺したのはぼくのことばだ。



暗殺によりたくさんの人たちを殺しておきながら、母親の死には罪悪感を抱く。
アンバランスで危うい彼の心理が興味深いんです。





そして彼がよく見る「死者の国」の描写。


死者の国には、いくつかのバリエーションがある。
さまざまに欠損した死者たちが果てのない荒野を列なしてゆるやかに歩むというパターンが、いちばん頻繁に降りてくるヴァージョンで、他には、これまた果てなく広がる墓地で、それぞれの墓石のうえにその主たちが座って退屈しているというものもある。



「死者の国」を夢に見ている主人公は、かなりスレスレの危うさがあります。
なんだか滅入ってきますが、止まらず読んでしまいます。


「わたしはなぜ殺してきた」のか


クラヴィスたちは戦闘適応感情調整により、感情に左右されないように調整していました。
それにより、淡々と任務を遂行できる。
テクノロジーが進んでいますが、想像するとちょっと恐ろしいです。
そして虐殺が起きている地域に行って、首謀者を暗殺していく・・・。

本書で、私が「えっ!?」と衝撃を受けたシーンがあります。
彼が首謀者に「なぜ殺してきた」のか尋ねる場面です。


「わたしはなぜ殺してきた」



・・・それが答えです。
虐殺をしている首謀者は、なぜ殺してきたのか分からないと言っています。
クラヴィス同様、私も衝撃を受けました。
そんなことが、ありえる?

そして背後にチラチラ見え隠れする人物、ジョン・ポール
彼がいた地域は必ず虐殺がおきる。
いつの間にか姿を消しているんです。
果たして彼は何者?





憎しみ合う世界と平和な世界


9.11テロ以来、その恐怖から徹底的な管理社会になった近未来。
プライバシーを捨てるかわりに得たものは、テロに対する安心感です。
でもその裏では異を唱える人たちもいました。


世界はどんどん個人情報管理によるセキュリティを高めていった。おなじみの『追跡可能性の確保』だよ。だけどそうやってセキュリティを高めていけばいくほど、世界の主要都市でのテロは増加していった



彼らは束縛されない自由を選び、国民は二分されていました。
そこだけ切り離された世界みたいです。

そしてこの物語では、平和な世界を守るために他を切り捨てるという、ある意味 残酷な思想が描かれています。
憎しみと平和。
それを影であやつる人物こそが、ジョン・ポール。
彼が見出したのが「虐殺の文法」なるものです。
読んでいてゾッとしました。
これはないわぁ・・・と思ってしまいます。
恐ろしい。


ここにある地獄と罪


ジェノサイドを見てきた主人公とウィリアムズとアレックス。
彼らの心のバランスは、すでに崩れていたのかもしれません。


地獄はここにある、とアレックスは言っていた。地獄は頭のなかにある。だから逃れられないものだ、と。



地獄を見てきた彼ら。
自殺した仲間。
地獄は頭のなかにある、という一文が心に刺さりました。
本書にはナチスのホロコースト、アウシュヴィッツのことにも触れていて、「地獄」という言葉が心に浮かんできます。

クラヴィスはルツィアに救いを求めるのですが・・・。


カウンセリングは必要なかった。ぼくが必要としているのは罰だ。ぼくは罰してくれるひとを必要としている。いままで犯してきたすべての罪に対して、ぼくは罰せられることを望んでいる。



暗殺を任務とする彼の心が壊れていく様は、胸が苦しくなりました。
罰せられることを望む主人公。
でも死んでしまった人には、もう罰してもらえない。
彼の心は永久に救われないのだろうか、と少し可哀想になります。

そして、罪を背負うことにした主人公の決断にあ然としてしまいました。
どうしてそうなってしまうのか。
物語だから良いけど、もし現代に「虐殺の文法」が本当にあったとしたら・・・。
そう考えると怖いです。

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