小説版『散歩する侵略者』前川知大 / すれ違いの愛

……私から、愛という概念を奪って

前川知大さん『散歩する侵略者』
劇団イキウメの舞台 「散歩する侵略者」 、前川知大さんによって小説版にしたものを読みました。秋に黒沢清さん監督で映画化されるんですね。主演は長澤まさみさんです。

「世界は終わるのかもしれない。それでも、一緒に生きたい。」

・・・このキャッチフレーズが切ない。そしてWOWOWでは、そのスピンオフドラマをやるようです。

ネタバレします。ご注意ください。

『散歩する侵略者』あらすじ

鳴海と真治の夫婦、そして侵略者の物語。

『散歩する侵略者』 オススメ度 : 感動 : 意外さ : 読みやすさ :

【あらすじ】
真治と鳴海の夫婦は、ちいさな港町に住んでいる。亭主関白ぶって浮気する真治、気づかないふりで黙っている鳴海。だが真治が、3日間の行方不明ののち、まったく別の人格になって帰ってきた。脳の障害―医師はそう言うが、子どものように素直で、「真ちゃん」と呼ばせてくれる新しい真治と、鳴海はやりなおそうと思った。だが静かに、町は変容していく。“侵略者”が、散歩しているから。地球侵略会議はファミレスで。鳴海と真治の夫婦、そして侵略者の物語。―「BOOK」データベースより

『散歩する侵略者』感想

ミステリアスな物語でした。

宇宙人がでてくるし、SF?

これは舞台や映像として見たほうが楽しめるのかなと思います。正直、会話文など少し読みづらさを感じてしまったので・・・。そして結末が謎。

身近な人が別人になってしまったら

少しホラー感があるSF小説。

しかもちょっとグロい・・・。簡単に言うと、侵略者 (宇宙人) が人の体を乗っ取って、ある目的のために人々の概念を奪って学習していく・・・というお話です。

宇宙人から概念を奪われた人々は、その概念がすっぽり喪失してしまうという、ちょっと恐ろしい展開になります。「ある目的」 がなんなのか、1度読んだだけのひだまりさん。は、よく分からなかったです。地球侵略?

そして乗っ取られた人たち (3人います) は、人格が変わってしまうから、言わば別人と言っても過言ではありません。自分の身近な人がまるっきり別人になってしまったら・・・?

昔見たジョニーデップ主演の映画『ノイズ』を連想しました。

・・・怖かったけど、この小説、結末がとても印象に残るものになっているんです。

この物語は 「愛」 をテーマにしているのではないかと思いました。

テーマは 「愛」

宇宙人に乗っ取られた真治が 「愛の概念」 が未だにわからないと言うと、妻の鳴海は・・・

……私から、愛という概念を奪って

ガイドであり妻である自分からそれを差し出そうとします。・・・このラストが印象に残りました。

結婚生活が破綻していた夫婦。宇宙人に乗っ取られてからの夫の方が優しくて、でも何かがおかしい・・・と感じる鳴海ですが、それでも真治を愛していて。でもそれを差し出すということは、鳴海から 「愛の概念」 がすっぽり消失することを意味しています。

それは人を愛するということが理解できなくなってしまうということで。そうなってまでも真治にそれを伝えたいと思う彼女の気持ちが、実はちょっとだけ理解できてしまうんです。

「いいからやれよ! だって死ぬんでしょ真ちゃん、帰るって死ぬってことなんでしょ? いいんだよ一石二鳥なの、自分の気持ちと私の気持ちが分かるから、で私は真ちゃんがいなくなることを悲しまなくて済むから、だってそうでしょ、愛が何か分からなくなるんだから。それが一番いいじゃない!」

こんなにも彼のことが好きなのに、肝心の真治は愛する気持ちを知らないまま終わってしまうのはイヤだという彼女の気持ち。・・・これが少しだけわかる。

けど、自分の中から彼を好きな気持ちや 「愛の概念」 そのものがなくなってしまうのは怖い。

それを鳴海は " 悲しまなくて済むから " と言っていますが。

概念を奪われた人々

「愛」 がテーマと書きましたが、全体的にはホラー感を感じる物語でした。

宇宙人に概念を奪われた人々の、その後にゾッとします。

例えば 「家族の概念」 とか「血の繋がり」 というものを奪われた人。それが理解できなくなるから、その人にとって、自分の父親 → 知らない変態オヤジ・・・となるのにはヒヤリとしました。

・・・ヘタすると人生が崩壊する。

散歩しながら概念を奪っていく侵略者たち。それで彼らがどんどん人間に近づいていくのも怖かったです。

『散歩する侵略者』絶望感に包まれる結末

舞台と映画がここで描かれている結末なのかはわかりませんが、ゾッとしました。・・・というか悲しくなります。ラスト、真治は鳴海から 「愛の概念」 を奪ってしまうんです。そしてその気持ちを理解した真治に残ったものは・・・。

鳴海は今、自分を本当に感じているだろうか。自分がそうであったように、きっと鳴海はもう、それを感じることが出来ない。こんな馬鹿なことがあるか! 結局どちらかが不完全なままじゃないか。

すれ違いの愛に絶望感を感じました。彼が愛する気持ちを理解したとき、彼女は逆にそれを失ってしまう・・・。とても悲しいラストです。

やっと手に入れた概念ですが、それと同時に彼に重くのしかかる苦しみ。そして外には警察が・・・。

私が思う真治のその後

小説は余韻をそのまま残した形で終わりますが、私は真治のその後を想像してしまいます。

きっと かつて鳴海が真治に抱いていた想いを今度は彼が背負いながら、愛の概念を失った彼女とともに生きていくんじゃないかな。

より人間らしくなって・・・。

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