『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』清武英利/外務省機密費を暴いた男たち

「機密費」という国家のタブーに挑んだのは、名もなき4人の刑事だった

清武 英利さん『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』
読み応えたっぷりの小説でした。清武さんの本を読むのは、山一證券を扱った『しんがり 山一證券 最後の12人』以来です。詳細なインタビューを重ね、破綻した山一證券を描いていました。

『石つぶて』も、かなりのインタビューを重ねて書いたんだろうな。

頭が下がります。外務省の機密費流用事件を軸に、二課刑事を描いたノンフィクションです。

『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』あらすじ

二課刑事を描いたノンフィクション!!

『石つぶて』 オススメ度 : 感動 : 意外さ : 読みやすさ :

【あらすじ】
消えた10億円。沈黙する官邸・外務省。「機密費」という国家のタブーに挑んだのは、名もなき4人の刑事だった。人間の息遣いが聞こえるヒューマン・ノンフィクション。―「BOOK」データベースより―

「なぜ?」 から始まった取材

ジャーナリストである清武さんが詳細な取材を始めたきっかけは、「なぜ?」 という疑問からだったと言います。

「最近、汚職って摘発されていないな。なぜだろう?」

本書を読むと、必ずしも汚職が減っているわけではないと気づきます。昔ながらの型破りの刑事、彼らを信頼して野放しにする上司がいなくなっていることや、捜査の可視化などで情報が命の汚職捜査がやりづらくなっているなど・・・。

いろんな理由が挙げられる中で、それでも必死に事件に食らいついていく刑事魂みたいのを感じました。

『石つぶて』では、警視庁捜査二課の刑事たちが描かれています。

ひだまりさん。がよく読む警察小説って、捜査一課とかの殺人事件を扱ったものが多いんです。二課刑事が扱うのは知能犯で、同じ刑事でも全然違うんだなと思いました。

主に扱うのは、警察用語で「サンズイ」すなわち 「汚職」 です。自らを 「瀆職刑事」 と評する彼らの地道な捜査と意地を感じました。

発端は、政治家・水野清からの電話でした。

外務省にとんでもない役人がいるらしい。サミットの入札で談合があるんだそうだ。

電話を受けたのは警視庁、捜査二課の刑事です。
そしてこの小説では、2001年の外務省機密費流用事件が扱われています。

『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』感想

・・・なんというか、この本すごい。
史実を元にしているから興味深かったです。二課の刑事さんたちや横領した外務省の人、政治家などが、ほとんどみんな本名で記されているからリアル感が半端ないんですよね。

領収書のいらないカネ!?

2001年に発覚した外務省機密費流用事件。
・・・実はひだまりさん。あまり記憶になかったんですよね。そんなことがあったのか・・・と。

Wikipediaより

松尾克俊は1993年10月10日から1999年8月16日まで外務省の要人外国訪問支援室長に在任し、46回の首相外遊を担当。9億8800万円にのぼる官房機密費を受領していた。このうち約7億円が詐取。そこから競走馬(大井所属)14頭、サンデーサイレンスの種付け権、ゴルフ会員権、高級マンション、女性への現金に浪費していた。

外務省の三悪人と呼ばれていた人物・・・。浅川明男、松尾克俊、小林祐武です。そのうちの1人、松尾克俊を調べるうちに、とんでもないことが明らかになっていくんです。

2課刑事の中島政司 & 中才宗義は、松尾の口座に入金されていた巨額のカネに目をつけました。

その資金はどこから?

「あれは領収書がいらないカネなんです……。総理の外遊時の経費です」
「何だ、それは!」
総理の? 領収書がいらない経費なんてあるのか。

領収書のいらない総理のお金・・・。この展開、ちょっとビビります。

―官邸のカネということは、総理のカネなのか。下手すると、俺たちが政府を転覆させるのか。

彼らは、とんでもないものを見つけてしまったんですね。

逮捕された松尾克俊

ところで、機密費を流用してしまった外務省の松尾克俊という男。馬を14頭、高級マンション、愛人が複数いたそうです。しかも競走馬には 「アケミボタン」 とか 「アケミタンポポ」 など、愛人の名前を文字ってつけていて。

・・・呆れるけど、マメな男ほどモテるんですよね。

でも ここで描かれている松尾という人物、なんとなく極悪人には思えなくて不思議な気持ちになりました。そして流用はしたけど、詐取ではないと最後まで否定していたのが印象的です。

ひだまりさん。は ニュースを覚えていないのですが、もし記憶にあったなら極悪人のような印象を受けたと思うんです。そうならないのは、彼の人柄を詳細なインタビューによって描いた清武さんの力なのかもしれません。とてもリアルに感じられて人間味があるんですよね。

そもそも、なぜ彼は機密費に手をつけてしまったの?

バカじゃないの?と思いますが、お金というものはときに人を狂わせるものなんだなと怖くなります。取り調べで松尾が言ったひとことに、ヒヤリとしました。

「一度やったら引き下がれないんですよ。泥沼から抜け出せないというか、戻れない。今さら帰れなかったんです。いつばれるか、という気持ちもあり、内心ではびくびくしていました」

一度やったら引き下がれない・・・。
ドツボにハマっていく恐ろしさと同時に、人間の弱さも感じました。もちろん悪いのは彼だけど、それを許してしまったチェック体制の甘さだとかも問題はあるわけで。なんとも煮え切らない気持ちになりました。

メインは名もなき4人の刑事

『石つぶて』は 流用事件を描きながらも、あくまでメインは名もなき刑事たちなんです。

確かに警視庁の一人ひとりの刑事の能力は検事たちに比べると劣っているように見える。(中略) それでも彼らには蟻のような人海戦術がある。無名の石ころの力を集めることで、霞が関の底知れぬ腐敗に光を当てることができる。

ひとりひとりの力は小さくても、その力が集まれば外務省という大きな組織にも太刀打ちできる。ここで主に登場する名もなき4人の刑事とは、中才宗義、中島政司、萩生田勝、鈴木敏を指しています。

この小説がなければ、多くの人に知られることがなかったかもしれない彼らにスポットがあたって良かったなと思いました。

彼らを始め、多くの捜査員の底力を目の当たりにした気分です。

本当に地道な捜査が描かれていて。でもひとつひとつウラをとっていくことで、外務省の闇を暴き出すのだから、小さくても1人の力はあなどれませんよね。

刑事たちのその後と清々しい結末

ラストは、ここで登場した刑事たちのその後が描かれていました。リアルだなと思うのは、決して彼らが出世したわけではないということ。

そして警察の捜査体制が大きく変わっていきます。やがて〈取り調べの録画・録音による可視化法案〉が可決。密室捜査から可視化捜査へ・・・。

サンズイ摘発が激減している事実についての記述があるのですが、現場で働く人しかわからない思いに胸を打たれました。それでも必死に食らいついていく1人の女刑事が最後に描かれていて、胸が熱くなりました。清々しい結末です。

彼女以外は名前も実名だし、本当にありのままを描いたノンフィクションなんだ。

驚きとともに力強さを感じる1冊でした。

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