『破滅の王』上田早夕里 /【感想】身勝手な人間と細菌兵器 「キング」 の脅威

ひとりの科学者の絶望が産みだした治療法皆無の細菌兵器―。

上田早夕里さん『破滅の王』。
これまた凄まじい。後半はとまらず一気によんでしまいました。上田さんの本はSFを中心に何冊か読みましたが、今回は 細菌をめぐる戦争のお話です。

少しだけネタバレあります。

『破滅の王』あらすじ&評価

【あらすじ】
一九四三年、上海。かつては自治を認められた租界に、各国の領事館や銀行、さらには娼館やアヘン窟が立ち並び、「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇ったこの地も、太平洋戦争を境に日本軍に占領され、かつての輝きを失っていた。上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本は、日本総領事館から呼びだされ、総領事代理の菱科と、南京で大使館附武官補佐官を務める灰塚少佐から重要機密文書の精査を依頼される。その内容は驚くべきものであった。「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、途中で始まり途中で終わる不完全なものだった。宮本は治療薬の製造を任されるものの、それは取りも直さず、自らの手でその細菌兵器を完成させるということを意味していた―。
―「BOOK」データベースより―

ドキドキがとまらない!細菌兵器 「キング」 の脅威。

『破滅の王』 オススメ度 : 感動 : 意外さ : 読みやすさ :

戦争を扱っているので、かなりズシンとくる物語です。前半は説明が多くて少し読むのがしんどかったけど、中盤から一気に面白くなりました。

『破滅の王』感想

感想をひとことで言うなら 「凄まじく面白い」 です。まず読み終わったときに、凄まじい・・・という言葉が浮かびました。

・・・フィクションなのかノンフィクションなのか、わからなくなります。実在する登場人も出てくるし。・・・いや、フィクションなんだろうけどリアルすぎるんです。

そう言えば、上田さんの著作『夢みる葦笛』に 「上海フランス租界祁斉路320号」 というのがありました。舞台は同じ上海自然科学研究所です。ストーリーはそれぞれ独立したものになっていますが、本作品へと繋がっていくんですね。

凄まじさにおののく恐怖の世界

舞台は中国です。日本が戦時中の頃。

・・・ひょっとしたらこの小説は 歴史や時代背景に詳しい人が読むと、また違った楽しさがあるのかもしれません。ひだまりさん。は 歴史に疎いので、読み進めるのがやっとでした。満州事変とか、日本軍とか・・・。しかも上海が舞台なので 中国人名とかもでてくるから少し読みずらかったです。

それでも途中から面白くなりました。今まで読んだ上田さんの小説はすべてSFだったので、また違う1面がみれたような気がして (*^^*)

やはり上田さんの描く世界はどこかしら怖さがありますね。

『夢みる葦笛』も『華竜の宮』も『深紅の碑文』も・・・。本作『破滅の王』も ある種の恐怖を感じました。(タイトルからして怖そうですよね)

ひだまりさん。が 特に感じた凄まじさは、細菌兵器 「キング」 とそれを扱う人間、そして実在の人物である日本軍の石井四郎の元で行われたとされている生体実験です。

細菌兵器 「キング」

『破滅の王』は 「R2v」 (キング) とよばれる細菌兵器を指しています。治療法皆無の細菌。それがもし撒かれたら・・・。恐怖を感じます。

上海自然科学研究所で働く宮本が灰塚少佐から見せられたのは機密文書でした。新手の細菌 「R2v」 (キング) について。ワクチンがない、治療法皆無の細菌兵器の詳細です。宮本は治療薬の開発を頼まれるのですが・・・

ワクチンと治療薬を作り出せば、自分はこの手で、R2vを完璧な兵器として仕上げてしまうことになる。

科学者のさがですかね。キングの治療薬を作ることは、自らが細菌兵器を作ることになってしまう・・・。でも治療薬がないままだと、それが撒かれたときに壊滅的なまでもの死者がでる・・・。科学者としての宮本の苦悩が描かれていました。

この細菌兵器 「R2v」 (キング) は、どうやら実在しないようなので一安心です。

でも本書で描かれている世界では実在していて、1番最後の 「その後・・・」 というところを読むと鳥肌がたちました。

使われている・・・。

恐ろしいですね。治療薬もワクチンもない細菌兵器。それをばらまこうとする人間は狂っています。

「キング」 よりも恐ろしいもの

リアル感が半端ないんです。もしやこの人物は実在するのでは? と思い、ネットで検索してみたのですが・・・い、いた!!

検索をかけたのは、石井四郎という人物です。

石井 四郎(いしい しろう、1892年6月25日 - 1959年10月9日)は、日本の陸軍軍人、軍医。関東軍防疫給水部長、第1軍軍医部長を歴任する。最終階級は陸軍軍医中将。功四級、医学博士。防疫給水部731部隊の創設者として軍隊や戦災者、現地の病人に飲料水を提供し、感染症予防のワクチンを投与するなどの防疫活動や、連合国軍の対日本細菌戦に対抗する研究を行ったとされ、森村誠一著の『悪魔の飽食』の中では、人体実験を中国で行ったと告発されている。―Wikipediaより引用

彼の元で働く藤邑 (この人は創作?) の告白シーンが恐ろしくて、でも読むのをやめられなかったです。

平房で行われた人体実験。・・・本当にあったことなんですよね。

非人道的な行いに嫌悪感がわきました。

『破滅の王』を読んでいると、どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションなのかわからなくなるんです。「キング」 も恐ろしいけど、もっとも怖いのはそれを扱う人間です。

「これを使えば、新手の細菌兵器を作り出せる」

戦時中という過酷な中で壊れていく人たち・・・。戦争ってさまざまな人たちを狂わせていくんだなと思いました。・・・黒い歴史ですね。

イケてる登場人物たち

上田さんが描く登場人物が素敵です。

特に灰塚少佐がかっこ良くて、主人公の宮本よりも気になってしまいました。・・・凄まじいだとか怖いだとかばかり書きましたが、彼らを見ていると胸が熱くなるんです。

この手は大勢の人間を殺し、傷つけ、そのつど必要なものを奪ってきた。すべて自分の意思で選んだことだ。時代のせいにはしたくない。誰かのせいにもしたくない。

灰塚の過去が気になる・・・。後半の灰塚&ヴァントコンビがイケてるんです。彼を主人公とした物語が読みたいと思いました。

身勝手なのは人間

上田さんの著作を読むと、いつも思い知らされるのが人間の身勝手さです。

1番怖いのは 「キング」 じゃなくて、それを扱う人間の方だと思い知りました。

でも上海自然科学研究所で働く宮本や、六川、そして灰塚のような良い人もたくさん描かれているから読んでいて楽しいんですよね。ドキドキがとまらない小説でした。

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